【絶賛】関連作知らなくても楽しめる!ラストマイル 感想・レビュー

映画『ラストマイル』感想 映画

おはようございます😄映画レビュアーのあーさんです。

今回は2024年8月23日より劇場公開された映画『ラストマイル』を鑑賞して参りましたので、その感想記事となります。

監督:塚原あゆ子と脚本家:野木亜紀子の黄金タッグが送る映画。『アンナチュラル』と『MIU404』と世界観を共有するシェアードユニバース群の第3弾。私は『アンナチュラル』と『MIU404』を未視聴で鑑賞に臨みましたが問題なく楽しめたことをご報告します。

面白いです。かなり面白い作品です!!


作品自体の面白さ・エンタメ性について
これについても問題なく邦画らしい御涙頂戴展開はなく作品の題材となっている通販=物流配送サービスを活用して社会の問題を浮き彫りにしていくドラマがエッジが効いていて身に迫るものがありました


キャストの演技も合格点をオーバーする実力者揃いで不快感なく作品を堪能できます。客寄せパンダ的なキャスティングがないところも評価したい点。


ターゲット層となる客層は性別問わずの社会人といった印象
現在アラサーで中間管理職のポジションについている私には他人事とは思えないようなトラブルが作中で描かれるのでとても感情移入しやすく約2時間の上映時間を退屈することなくスクリーンへの集中を継続できたところもポイントが高い。


まとめると
邦画の悪いところを可能な限り削って、実力十分な演技派俳優陣を揃えて、もはや社会インフラと化してしまった通販=物流配送サービスを題材に社会的問題を浮き彫りにして観客に問題定義させる社会派エンタメ映画。

といった作品でしょうか。

一旦総括を終えたところで、ここからはネタバレ全開で印象に残ったシーンを振り返って感想&考察をしていくます。




「2.7m/s → 0」「70kg」 の意味について

映画冒頭にいきなり観客の前に姿を現す「2.7m/s → 0」「70kg」。

これが作品のテーマを象徴していることは明白なのだけど、作中で具体的にこの意味について登場人物が説明するようなシーンはない。映画後半でエレナと孔がこの意味について推察する場面こそありますが肝心な説明自体は省いていて観客からすると不親切。

監督が説明を省いた意図について考察

観客からすると明確な答えを提示して欲しいところですが、この意味を説明してしまうとこの映画はB級映画へ急降下してしまうので作品のクオリティを担保するために説明を省くのは正解だと思います。

また監督の意図としては観客に「2.7m/s → 0」「70kg」の意味を考えさせる、考察させること自体が作品が目指していた一つの目標だったと私は思います。物語の着地点が気持ちの良いハッピーエンドではなかったことを踏まえると、作品を鑑賞し終えた観客が「2.7m/s → 0」「70kg」の意味を考えてこそこの作品は完成すると勝手に解釈させていただきます。

なので、私はこの解釈を信じて自分なりの答えを出していきたいと思います。

「2.7m/s → 0」「70kg」は歴代センター長の「声なき叫び」

「2.7m/s → 0」「70kg」は物流コンベアに70kgの負荷を与えれば停止するという意味。

これには何とかして物流を止めたい=仕事を止めたい・辞めたい・解放されたいという山﨑拓(演:中村倫也)の「声泣き叫び」だったのではないかと思います。


中村倫也の体格は身長約170cm・体重は不明ですが身長から察するに標準体重は63kgくらいだと推定。自分のフィジカルだけではコンベアを止めるだけの負荷をかけることができないと考え、高所から落下することで位置エネルギーで足りない負荷を補おうとしたのではないかと推察。

しかし、そんな山﨑の決死の想いも虚しくコンベアは止めることはなかった。頭から流血しながら朦朧とする意識の中で止まることなく稼働を続けるコンベアを目の当たりにした山﨑の心境は察することも恐ろしい。山﨑に聞こえていたかわからないがディーン・フジオカ演じる五十嵐道元の「死んでも止めるな」という台詞も人の心がないんかと言いたくなる無慈悲な言葉で、山﨑の行動が失敗に終わった絶望感を共有する観客に追い討ちをかけてくる。

山﨑が病院へ搬送され植物人間状態となったのちも安全対策=「落下防止の安全ネットを張る」が施されることなく工場が稼働を続けていったのはあまりにも工場の安全意識が欠如しているようで人間を部品のように考えているように思えてならない。(通常、労働災害が起きた場合は再発防止策が施される


山﨑が工場から去ったのち、歴代のセンター長に決して消してはならないと引き継がれていった「2.7m/s → 0」「70kg」
歴代のセンター長はこの意味は分からずとも山﨑の想いだけはなんとなく伝わっていた。センター長という中間管理職の重責に心を蝕まれていく苦しみを忘れてはならないという一種の教訓がバトンが託されていったのではないでしょうか。


犯人の正体が重要ではない物語

本作品はミステリー要素を孕んでいますが、犯人を解き明かすことが作品の肝ではありませんでした。犯人が犯行に及んだ動機そのものが作品の中核に根ざし観客が映画の登場人物たち並びに映画を視聴する観客が向き合うべきものだった。

心に残る犯人のセリフ

今回の物流配送サービス爆弾事件を引き起こした犯人は作中でこんな言葉を残しています。自分の記憶を頼りに文章化しますので劇中ままではないと思います。


「もし私が悪いのならば私が罪を償います。でも、もし私ではなくこの世界が悪いのであれば誰が罪を償ってくれるんでしょうか?」


この言葉を受けた主人公=舟渡エレナ(演:満島ひかり)は沈黙するしかなかった。

犯人が残したこの言葉は彼女に心にタトゥーのように刻み込まれてしまったのではと思います。それだけ言葉に込められている重みが計り知れない。

事件解決後も心に残るのは濃く苦い後味

このシーンは実際に事件が起きる5年前のやりとりだが、今回の事件が起きた原因=根っこが犯人ではなく世界構造の歪みそのものであると揶揄しているように思えてならない。犯人が判明し事件が幕を下ろした後もこの作品には苦い後味のようなものが続く。通常のミステリー作品であれば犯人判明&逮捕で気持ち良くなれるが『ラストマイル』では濃い苦味のような後味が心に漂い続ける。

その後味が続くのは事件が解決しても犯行が起きた根っこにある原因そのものの解決には至っていないから。

今回の事件で観客は物流配送サービス業界の内側を覗き見ることとなった。それはとても一言で形容できないような厳しい世界で長くこの世界に留まれば人間性を徐々に失っていくことが約束されているような残酷なもの。特に観客の目に印象的に映る各物流に携わる長の姿。彼ら長は中間管理職として仕事のノルマと協力グループとの関係性に板挟みとなって心身をすり減らしていく。阿部サダヲ演じる八木竜平は見事にストレス過多の中間管理職サラリーマンを演じていて観客の心に爪痕を残していきました。(私も実際に中間管理職を務めているので少なからず彼の気持ちに寄り添えるものがあって見るのが辛くなるほど感情移入してしまいました

物流サービスの低賃金問題・中間管理職の罰ゲーム化問題などなど現在社会が抱える課題を反映し浮き彫りにした『ラストマイル』。この映画がハッピーエンドで終わらなかったことは正解だと思います。ここで何もかも解決してハッピーな幕引きを迎えていたら現実社会とのギャップに萎えてしまう。監督はこの作品を通して観客に世の中の問題をより身近に感じて欲しかった。そしてその問題に向き合い少しでも明るい未来を目指していこうと思って欲しかったのではないかと思います。その方法は観客自らが見つけ出すしかない。だから映画はハッピーエンドではなかったけれど心に残る良い終わり方だったと私は思う。


最後はヒーローとして描かれた末端ドライバー:佐野親子

映画序盤から登場し🚚物流サービスの末端を担当とした佐野親子。

彼らは最終的には犯人の最後の爆破物から一つの家族を救うというヒーローとして描写されました。


彼ら物流ドライバーは映画中盤でストライキを起こすという重要な役割を担ってくれました。物語的にはそこで彼らの出番を打ち切っても問題なかったように思います。でも、監督は最後の爆弾の被害を食い止める超重要なクライマックス場面の役目を彼ら末端ドライバーに託した。これに深い意図がないとは思えない。これには監督から運送ドライバーは我々のヒーローなんですよというメッセージが込められているように感じてならない。もはや物流配送サービスは我々の生活に欠かせない社会インフラ同然と化しています。そのインフラを支えるドライバーを映画ラストにヒーローとして見せたことは、彼らへの感謝の気持ちを持とうという意図があるのではないかと推察します。

普段から物流サービスのお世話になっている身として彼らへの感謝の気持ちを絶やさないでいきたいと思います。


2人の主人公の末路

舟渡エレナ(演:満島ひかり)
梨本孔(演:岡田将生)

事件が解決し、普段の日常へと戻った両者は新たな一歩を踏み出すこととなる。エレナは仕事を辞めると告げ、新たな人生の拠点=仕事探しへ。孔はエレナの後釜として新たなセンター長となる。

ケジメをつけ業界から去るエレナ

エレナが仕事を辞めるという決断をしたのは物流業界が抱える実態を目の当たりにしたことと物流業界が世界に与える影響を今回の事件で理解したことが理由だと考えられる。映画序盤で「全部欲しい」と言っていたエレナは出世街道に標準を合わせて人生を積み上げ、実際にセンター長に抜擢される実力の持ち主。このまま現在の勤め先に残ってキャリアアップをしていくという選択肢もあるだろうが業界の闇・問題を目の当たりにした彼女はスッパリと縁を切る道を選ぶ。

この決断には5年前に事件を防ぐことができなかった自分へのケジメが含まれていると推察します。

あの時自分が行動を移していれば今回の事件は防げて死傷者を0にできたかもしれない。そんな想いがエレナの中にはあり、あの時行動しなかった自分も事件を引き起こした側の人間だと捉えていたのではないでしょうか。

今回の事件で上層部の腐り具合を目の当たりにし業界に残り続けてもその罪を償うことはできないと判断。だから、「全て欲しい」と語った自分の欲を満たすのではなく罪と責任と向き合うために新たなフィールドへ踏み出す決意をした。

真実はわからないけれどエレナが優秀な人物であることは本人の口からも発せられています。彼女なら0からでも何かやり遂げられると信じたい。



工場の未来を託された孔

対してエレナに現状維持が目的と宣言していた孔はセンター長という役職に就くこととなる。孔が現職に就いたのは2年ほど前。わずか2年でのセンター長への就任。世界的EC企業なので他にも有力な候補者がいたのは容易に想像できます。
でも孔がなった。これにはエレナの推薦があったのではないかと推察。
今回の事件を通じてエレナは孔の人物像を短期間ながら認識した。命の危機に瀕する場面でも逃げ出さずエレナに寄り添ったことや警察に速やかに情報提供しようとする彼の姿勢を評価したのではないかと思います。

エレナはただ「次のセンター長は君」だと孔に告げただけですが、この一言に強い信頼が込められていたように思えてなりません。

孔がどのようなセンター長になるか描写がないので予測しかできませんが、願わくば彼の最初の一手は「転落防止の安全ネット」の設置であることを願います



終わりに

今回は映画『ラストマイル』をレビューしました。

2024年現在の社会問題を浮き彫りにしつつエンタメ性を持った秀逸な作品でした。アンナチュラルやMIU404を視聴していたらもっと楽しめたのではないかと思う点が心残り。特にダメ出しするような点はなかったので高品質な作品で大満足です。


決して後味の良い作品ではないですが、それは作品に奥深さがあるからこそ。大変考察しがいのある作品でレビュー記事を書いていて楽しかったです。

今後、監督:塚原あゆ子と脚本家:野木亜紀子の黄金タッグが送るシェアードユニバース作品が現れたら是非とも視聴したいですね。個人的にはあまりドラマを見ない性分なので映画で展開してくれると嬉しいです。

それでは今回は以上となります。

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