おはようございます😆映画レビュアーのあーさんです。
今回は2024年8月17日より都内1館のみで上映スタートして徐々に公開規模を広げている話題作『侍タイムスリッパー』を見て参りましたので、その感想記事となります。
単館からスタートして口コミにより好評を受けてのシアター増加。
かつての『カメラを止めるな』を想起させるムーブメントが起きていると聞いて、見に行かなければと思っていたところ、私の地元愛知県でも劇場公開されているとの情報を得たので予告編など一才見ない状態で劇場に足を運びました。
ジャンルとしては内幕ものに該当するのかな?
侍・タイムスリップ・時代劇など色んな要素を孕んだ作品ですが作品の軸として機能しているのは内幕ものとしての側面が一番濃い。
(内幕ものとは・・・ドラマの撮影などの舞台裏にフォーカスした題材のこと)
いやぁ、すごい映画でしたよ!
まじで傑作です!時代劇に興味の薄い私でも睡魔が訪れることなく約2時間スクリーンに釘付けにされてしまいましたよ!
ネタバレ無しで見れて良かったと心から思います。
この記事でもネタバレ成分は控えめに何が作品の魅力だったのかプレゼンしていこうと思います。
前半はネタバレなし(公式サイトで見れる情報には触れていきます)、後半はネタバレ含みつつも物語の核心やクライマックスについては触れないように気をつけていきます。
それではいきましょう。
面白さ:星*9 ★★★★★★★★★☆
脚本の出来栄えは今年だけでなく近年でもトップクラスにハイクオリティです。
ストーリー構成が巧みなんですよね!
冒頭、幕末の時代からスタートしタイムスリップして現代の日本にやってきてしまう主人公:高坂新左衛門。そこから彼のセカンドライフが幕を開ける。最初に飛ばされた場所が時代劇の撮影所だったこともあって自分が未来に飛ばされたことに気付くのが遅れる高坂だが、彼が事実に気づくタイミングが訪れる。
その時の彼の絶望感・喪失感を観客に伝える演出に手腕がお見事!この場面まではイマイチ作品にのめり込めるか不安だった自分の心が方向転換し主人公:高坂の行く末を見届けたいと思わせてくる。
その後の彼の物語が少年のような成長っぷりを披露する展開なのがズルい!
見た目40前後のおっさんがタイムスリップによって何もかも失ったことから始まるセカンドライフ。初めて出会うものばかりの現代機器・食文化に対する新鮮すぎるリアクション。現代社会で生きていくために職を身につけようと奮闘する姿。
徐々に徐々に成長していく姿はまるで自分の子供の成長を見届けるかのような錯覚を呼び起こす。しかも、見た目40前後のおっさんがかつての侍としての地位をわき目も触れず全くの0から一歩一歩前進していく過程は美しく、心に染み込んでいく。
そして物語は、最終幕へと突入していきます。高坂が幕末から現代にタイムスリップしたことに気づくまでが第1幕。第2幕は高坂が正式に現代でセカンドライフをスタートして斬られ役として成功階段を歩んでいくところ。
最終幕となる第3幕はそんな成功階段を歩んでいる彼の前に侍としての心意気を蘇らせる出来事が訪れるところから始まる。その後の展開についてはここではノータッチとさせていただきます。
セカンドライフをスタートさせて侍ではなく斬られ役として順風満帆な人生を歩んできた彼に訪れる転機とは何か、そしてそれがどのようなラストに帰結していくのか。そして高坂の恋模様の行方はどうなるのか映画本編でお確かめください。
【見事な化学反応】侍✖️時代劇✖️内幕もの
これは題材の勝利というかアイデアの勝利と言わざるを得ないですね!
日本人なら誰でも知っているであろう侍・時代劇。しかし時代の流れとともに風化しつつある文化をいつの時代も色褪せない魅力を放ち❤️🔥熱きクリエイター魂を提供する内幕ものに組み込むという発想はお見事です。
私は現在30前後のアラサーです。時代劇を嗜む世代ではなく、これまでの人生で時代劇に感動や興奮を覚えた場面は記憶にございません。そんな私でもこの映画は最高に面白かったと断言できます。
映画を見る前は不安もありました。
客層の年齢層が自分よりも遥かに高齢で自分はメインターゲットから外れていると思いました。しかし、映画の序盤の山場でその考えは心の中から消え去っていてすっかり映画に夢中になっている自分がいました。
古い文化といつの時代も通用する普遍的題材を組み合わせることで生まれる新しい化学反応がここまでエンターテイメントとして成立するということを再認識させてくれたことに深く感謝です。
キャラクター:星*8 ★★★★★★★★☆☆
映画において最重要ファクターであるキャラクターという面において本作品はお見事です。
主人公:会津藩士の高坂新左衛門の魅力がずば抜けていた。彼の侍としての生き様の勇ましさ、恋心を抱く女性に対する柔和で紳士的な態度のギャップが良い。恋心を抱く女性には少々ヘタレな一面も見せたり彼女に近づく男性がいると焦ったり対抗心を燃やしたりと可愛い一面もあるのがキャラクターとして多彩な魅力を放っています。
脇を固めるキャラクター陣も素晴らしい。
高坂新左衛門が想いをよせる山本優子。女性ながら監督デビューを目指し助監督としての日々を邁進するひたむきさが眩しい。
高坂が現代の下宿先として厄介となる寺の住職夫婦もまるで高坂を我が子のように支え、人柄の良さが人相にも現れていて作品の温かみを牽引する役割を担っていた。
どのキャラクターも始めましたの人ばかりなのに誰かに紹介したくなるような素晴らしい人物ばかりでした。
役者の芝居:星*12 ★★★★★★★★★★⭐️⭐️
芝居の水準は全キャストすごいです!
やはり目を引くのは侍としての時代訛りを完璧に表現していた高坂新左衛門を演じる山口馬木也さん。
藤田まこと主演「剣客商売」で息子役秋山大治郎を演じて以来、数多くの時代劇をはじめテレビ、映画で活躍。
大河ドラマも常連の実力派俳優。
最近では時代劇「鬼平犯科帳 本所・桜屋敷」に鬼平の親友左馬之助役が記憶に新しい。
本作は役者生活25年で自身初となる長編映画での主演。
「インディーズ作品であるという戸惑いより、とにかく脚本が面白かった」と出演を快諾。
「この作品、この役との出会いに感謝。役者を続けてきて良かった」と語り関係者を泣かせる。侍タイムスリッパー公式サイトより引用
山口さんの芝居のクオリティは段違いです。別格です。本当にタイムスリップしてきたのかと思わせる言葉遣い。ちょんまげ姿が様になっているし、時代劇顔と呼ばざるを得ない人相。それでいて誠実な人物であると納得させる表情の多彩さ。
よくこれほどベストマッチな役者さんをキャスティングしたなぁ
、と監督を始めとしたスタッフの目利きに脱帽です。
殺陣(アクション):星*12 ★★★★★★★★★★⭐️⭐️
本作品の殺陣へのこだわり・クオリティは素人目に見ても明らかに群を抜いています。
刀を振るうスピード感・重量感のバランスの良さ、納刀&抜刀する時の所作の美しさ、刀が振るわれ刃が交わる時の甲高い金属音、斬られた役者のリアクションの迫力、刀を振るう役者の剣幕・気迫・表情。どれをとっても一級品です。
そしてクライマックスの剣戟。まさに生命を奪い合う死合いと呼ぶに相応しい熱量を持っていました。
下↓に今作の殺陣師を務めた清家一斗さんの情報を公式サイトより引用してご紹介させていただきます。スクリーンに姿こそ映りませんが、今作のハイクオリティな殺陣を実現した功労者の1人なので、その名前を多くの方に知っていただければと思います。
殺陣 清家一斗 (東映剣会)
「鬼平犯科帳」SEASON1「大岡越前」「科捜研の女」など多数の作品で “殺陣師” として活躍。 若いながらもトップレベルの実力で現場の信頼を得ている。
本作の撮影時、監督から構図の微調整で俳優達の立ち位置の変更を求められると、瞬時に殺陣を作り替えて対応。 職人として驚くべき才能を見せる。 殺陣の撮影が初めてだった監督が真夏に何回もリテイクを繰り返し出演者を汗だくにさせる。「何回さすねん」と吹き出すクレームを、監督にプレッシャーを与えまいという配慮からあえてスルー。 却って監督への恨みが増す結末に…(汗)
その後現場の崩壊を憂え「テイクは2回まででお願いします」と進言。
おかげで殺伐とした空気が収まると言う成果を出す。 東映京都撮影所の至宝であり父でもある殺陣師清家三彦氏を「この作品で超えよう」と密かに監督と誓いあった。
「手持ちの広角レンズで撮る近年のアクション剣戟ではなく、カメラを三脚に据え、刀の重みを感じさせる往年の時代劇の立ち回りを」と言う監督のオーダーに見事に応えた。侍タイムスリッパー公式サイトより引用
感想(ネタバレ含む)
【応援するしかないじゃん】おっさん侍の成長譚
主人公:高坂はある出来事をきっかけに現代でのセカンドライフにて斬られ役という時代の逆風吹き荒れる職に就こうと決心します。
斬られ役になるために殺陣師関本さんに弟子入りするための仲介役を山本優子殿に西経寺住職と共に話す場面。胸が熱くなるような感動を覚えました。
タイムスリップで何もかも失ったおじさんがリスタートする決心をする。並大抵の覚悟じゃできません。大人になればなるほど過去の栄光にしがみつく傾向になるもので自分の変化を嫌います。でも高坂は過去に縋ることもなく前を向いて現代に適応しようと前進を決意したのです。
しかも斬られ役という刀で倒される役をチョイスする。
侍として武勇を認めらていた男が敗北することを生業とする役に就こうとしている。
どんなに歳を重ねようとも成長し変化しようとしている人の姿は眩しく輝いて見える者です。
【ヘタレっぷりが可愛い】おっさん侍の恋模様
高坂は明らかに山本優子殿を意識していることは観客及び高坂周辺の人物には丸わかりです。優子殿は気づいていない模様ですが。(鈍感なのかな?)
恋するおじさんの姿がこうも可愛く見えるものかと、この映画で新しい扉を開いた気がします。
とにかく高坂の恋する姿は可愛いですよ!
侍としての勇ましさや貫禄は一切なく、そこには想い人に恋心を隠すピュアなアラフォーの姿しか映っていない。ピュアっピュアですよ。ピュアっピュア!
その恋模様の行末について気になるという方のためにネタバレしてしまうと
告白しようとするも告白できないまま物語が幕を閉じてしまいます。
無茶苦茶かっこいいシーンの後に放った言葉を再び告白未遂の後に放つのですが、それが全く迫力がなくて同じ文章なのにユーモアをもたらす役割をしちゃんですよね。その言い方がこれまた絶妙でしてね。ヘタレっぷり100%で、クライマックスというメインディッシュの後にやってくるデザートシーンみたいで大好きな場面です。
【真剣⚔️】クライマックスの緊張感MAXの剣戟
この映画の殺陣のクオリティは全編通して高水準です。その中でも断トツで群を抜いているのがクライマックスの剣戟。
映画の撮影なのに真剣を用いたまさしく死合いと呼ぶに相応しく、一撃でも身体に届いたら無事では済まないという緊張感が張り巡る。
殺陣を披露する2人の役者の顔の気迫・剣幕の迫力。身体の筋肉の張り詰め具合が衣服越しにも察することができる雰囲気を醸し出しており、観客であるこちら側もこの剣戟がどういうオチになるのか読めない。
もしかしたら、本当にどちらかが血を流す展開になるやもしれない。
そんな憶測が緊張感を加速させ、達人同士の刃のぶつかりが続くことでより一層スクリーンから目を離せなくなる。
また、刃を振るだけでなく眼光を活用した睨み合いや牽制が達人同士のやり取りを一層ディテールアップさせ、刀が振るわれることによる緊張感をさらに飛躍させる。
この死闘を演じた高坂新左衛門役/山口馬木也と風見恭一郎役/冨家ノリマサに拍手です。間違いなく歴史に残すべき殺陣でした!
終わりに
今回は『侍タイムスリッパー』をレビューしました。
めっちゃ面白いかったです。
『カメラを止めるな』に通じるムーブメントが起きたのも納得のクオリティでございました!
キャスト&スタッフの魂が込められた傑作です。時代の潮流によって下火となりつつある時代劇に再び息吹を吹き込めようとする意気込みが伝わってきました。
ありがとう安田淳一監督(監督以外にも脚本・撮影・照明・編集・他やってらっしゃいます)。
映画の初号完成時には銀行預金残高7000円だったという事実には驚きましたが、インディー映画で時代劇を作るという無謀とも思える挑戦は大成功であったと胸を撫で下ろして欲しい。
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