今回は2025年1月10日より劇場上映された映画『劇映画 孤独のグルメ』を鑑賞してまいりました。
2012年のTV放映を皮切りにシーズン10・特別編『それぞれの孤独のグルメ』・大晦日SPなど歴史を積み重ねてきた人気作品こと『孤独のグルメ』。ついに映画化ということで、私もシーズン8の頃からお付き合いしているので、1ファンとして鑑賞して参りました。
しかし、鑑賞前の心持ちというのはそこまで明るいものではなかった。
TVシリーズの完成度の高さは説明不要レベルに至っており、逆にTVが最適メディアだから映画化する意味はあるの?
と、思っていた。
『孤独のグルメ』は井之頭五郎の食事風景を見るだけの作品。そこに謎の面白さがあり、メニュー表と真剣に睨めっこするおっさんの姿や誰に語るわけでもない食レボモノローグに価値を見出している作品。
映画の尺2時間前後に、その面白さ・旨みを飽きさせないように提供できるのか?
そもそも大晦日SPで長尺の前例があるのだからわざわざ映画でなくても良いのでは?
とネガティブな想いが心の中で渦巻いていたのは事実。
しかし、鑑賞し終えてその想いは晴れました。
間違いなく今作は映画館で見るに値する代物であったと断言します。
鑑賞を終えての評価を下すのならばSSSS!限界突破の最高評価に値すると感じました。
なぜ、私がそこまで絶賛するのか。
その答えはネガティブな想いをブレイクしてくれた3つのヒーローがこの映画にいたから。
本記事ではその3つのヒーローを紹介していこうかと思います。
それでは偉大なるプレゼンター故スティーブ・ジョブズに倣って1スライド1メッセージをモットーに進めていこうかと思います。
よろしくお願いします。
TVシリーズでは困難な3つのチャレンジ(⚠️ネタバレあり)
それでは早速3つのヒーローを紹介していきましょう。
ここで一つ注意点なのですが、ここから先は映画の中身に触れていってしまいます。故にネタバレNGの方は注意のほどお願い申し上げます。
第1のヒーロー:架空の店舗。
第2のヒーロー:4人での食事。
第3にヒーロー:劇中劇。
以上3つのヒーローを今回の記事で取り上げていきます。
これだけだと何のことだかさっぱりだと思うので、一つひとつ深掘りしていきましょう。
第1のヒーロー:ラーメン店さんせりて
まずは架空のラーメン店:さんせりて。
こちらの店は実在する店ではなく映画の中にのみ登場する架空の店舗。
実写ドラマ『孤独のグルメ』シリーズを愛好している方なら、ご存知のことでしょう。同シリーズの最大の魅力は実在する店舗・メニューが劇中に登場すること。
実在するので、視聴者が自ら足を運び、井之頭五郎と同じメニューを食す機会を得ることができる。それが同シリーズの大きな強み・武器です。
この映画、前半戦は確かに実在する店舗に足を運ぶ井之頭五郎を堪能することができる。
しかし、映画後半戦に突入した辺りでガラッと作品の雰囲気が変化する。その変化に伴ってそれまで登場していた実在店舗の出番は0になってしまう。
専売特許とも言える実在店舗を自ら封印するシナリオ構成に驚きを隠せない。
全ては“映画”へ至るための道のり
自ら最大の武器を封じてまで、実在しない架空の店舗を登場させたのは映画後半戦を孤独のグルメではなく“劇映画 孤独のグルメ”にするために必要なことでした。
前半戦に巻かれていた伏線がこの後半戦から回収され・繋がり、見応え抜群のドラマが紡がれていくのです。
本作の物語はとある人物から想い出のメニュー“いっちゃん汁”を再現したいという要望でスタート。
その依頼を叶えるために井之頭五郎は様々な地へ赴くこととなるというのが前半戦の内容。
前半戦はTVドラマの延長線上という感覚が色濃く、映画的な要素は散りばめられているけれど鑑賞している身としては家でTVシリーズを視聴している感覚に近い。
しかし、この前半戦で散りばめられた小さな要素が後半戦で重要な意味を持つ。
前半戦で出現していた小さな要素は全てラーメン店:さんせりての店主にスープ作りを依頼するのに必要なピースとして機能するのです。
井之頭五郎が料理できないのも、漂流先で乾物を入手したのも、韓国にたどり着いてしまったことも、前半戦のあらゆる要素がゴールに至るためのピースとして機能していく。
ピースが一つひとつはまっていくことに気づいていた時の私の感覚はそれはもう素晴らしいものでした。
TVシリーズでは味わえない感覚。この感覚を味わってしまったら、もうこの作品をTVドラマの延長線上のものということはできない。
まごうことなき映画そのもの。
劇映画の劇って何?
さてここで疑問です。作品がTVドラマの皮を破り映画へと昇華してくれたのは大変喜ばしい事実ですが、一つ気になることがあります。
本作のタイトルは『劇映画 孤独のグルメ』。
映画 孤独のグルメではない。“劇映画”。
劇とは一体何のでしょう?
第2のヒーロー:禁じ手の解禁
先ほど沸いた疑問を解決するために、こちらのヒーローをご紹介しましょう。
4人での食事。
4人です。4人。4人なのです。
1人じゃない。4人。
ラーメンの店主に依頼したスープを今回食すのは井之頭五郎1人ではない。スープ作りに関わった人や店主への依頼に協力してくれた関係者全員で食事をする。
井之頭五郎。吾郎のビジネスフレンド滝山。吾郎を漂流先で救ったソルジャー風の男:ダニエル。
そして、謎の男:中川。
この4名で同時に完成したスープを、スープを活用したラーメンを食す。
そう孤独ではないのです。
孤独のグルメ史上、吾郎が誰かと席を共にして食事をすることはなかった。
(少なくとも私の記憶にはございません)
それでいいのか!?孤独のグルメ!?
と、疑問に思いつつ映画だから良いのかなぁ・・・と納得する他ない?
2番目のヒーローは3番目のヒーローとのタッグ
4人での食事解禁
これが2番目のヒーローです。TVでやってこなかったことをしたからヒーローに選出したわけではございません。2番目のヒーローは3番目のヒーローとタッグ。
2番目のヒーローの真価は続いて紹介する3番目のヒーローを知ることで理解できます。
第3のヒーロー:善福寺六郎
さて最後のヒーローの紹介です。その名も善福寺六郎!
誰?
と、映画をご覧になっていない方はそう思ってしまうでしょうから解説します。
彼は劇中劇“孤高のグルメ”の主役善福寺六郎なのです。
演じているのはこの方。遠藤憲一さん。スーツを身に纏った姿がどっからどう見ても井之頭五郎瓜二つ。
先ほど紹介した謎の男:中川の正体はTV東京の助監督。
彼はラーメン店さんせりての店主にドラマの撮影モチーフとしてのオファーする人物だったのです。
4人でスープを食した後、中川の正体というか職業が判明。
店主からの承諾を得られて、ドラマ“孤高のグルメ”がクランクインする。
その撮影風景は360°どこから見ても我々が愛するTVドラマ『孤独のグルメ』と同じもの。
こんなの見せられたら納得するしかない!
禁じ手とも言える架空の店舗・孤独ではな食事を使ったのは全てここに辿り着くため。
確かにこれは実在店舗を用いて作劇を展開するにはややこしすぎる。全て架空の店舗というロケーションが可能にした。
これで劇映画の劇が何なのか観客にもわかったわけです。
劇中劇!だったというわけですね。
おまけ:パンフレットの情報量に溺れて
さて3人のヒーローの紹介が終わったところで、ちょっとしたボーナスをご紹介しましょう。
パンフレットを購入したので、その一部を読者の皆様と共有していこうかと思います。
全てを語ることはできませんが、これは!と思ったことは簡易的ながらここに記しておきたいと思います。
絵画の作者は故・谷口ジロー先生
本作の物語の起点となった絵画。
その作者がパンフレットに記されていました。『孤独のグルメ』の原画を担当してらした故・谷口ジロー先生が制作されたものとのこと。
映画の物語の起点に原画を担当された遺作を採用する。
粋ってものですね。
絶品チャーハンのレシピ(フードスタイリスト飯島奈美氏による再現)
今回登場した架空のラーメン店:さんせりて。
そこで吾郎や中川が食していたチャーハンのレシピがパンフレットに記されています。
ここでそれを開けっぴろげにするのは無粋だと思うので詳細はパンフレットでご確認いただきたい。
映画の制作期間は約1年
内幕もの月には堪らない情報が載っていました。
それが本作品の制作日誌。そこには制作期間が明記されており、事細かにこの日に何があったという貴重なデータの宝庫になっている。
ポストプロダクション〜プリプロダクション、初号の試写に至るまでの道のりが拝めるのは大変貴重です。
最後に〜お気に入りの台詞〜
それではそろそろ本記事を締めくくるとしましょう。
ということで、最後に私の好きな台詞をご紹介して幕とさせていただきます。
予告編でも確認できる井之頭五郎の言葉。
予告で耳にしたときは、いつもの吾郎節全開だなぁ〜程度の認識でした。
しかし、映画鑑賞後は妙に心に染み渡る名言に思えてならない。本作ではフランス・韓国・日本と様々な土地でのスープが登場する。それが繋がり最後に一つのスープを完成させる。そして、そのスープが国境を越えて笑顔を生む。
この笑顔を目の当たりにできたことは素晴らしい出会いでした。
ということで今回は異常とさせていただきます。お時間いただきありがとうございました。
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